
「離婚する前提で別居をしたので、公正証書を作成したい」と、問い合わせをいただき、公正証書作成サポートをした事例です。
ここでは、A様といたします。
離婚時の公正証書は、正式には
です。
その中でも「離婚給付契約公正証書」となることが多いです。
離婚時に公正証書を作成される方は、お支払の約束がありますので、タイトルは内容によって違うものではなく、作成する公証人がどのタイトルにされるかです。
(支払についての事項がない場合は、離婚時契約公正証書となると思いますが、このタイトルの公正証書も支払内容の記載はありますし、他と内容はかわりません)
別居時の公正証書についても、
あるいは
となります。
こちらも、作成する公証人がどのタイトルにされるかですが、「婚姻費用の分担に関する契約公正証書」とされるほうが多いように思います。
以下では、離婚公正証書、別居公正証書として説明します。
詳しくは後述しますが、「離婚公正証書」と「別居公正証書」は別です。
別居する時に作成した公正証書の内容が、離婚の際に、別居の際とお支払金額が同じで引き続きであっても、そのまま使えるものではありません。
たとえば、お子さんについての費用は、別居であれば、配偶者も含めての婚姻費用となり、離婚となれば、婚姻費用ではなく、お子さんの養育費となります。
別居公正証書は別居についての合意内容を決めた書面であり、離婚公正証書は、離婚後の合意内容を決めた書面です。
まずはA様に、別居と離婚それぞれの公正証書についてご説明させていただきました。
別居で公正証書を作りたいと思う人の多くは、「強制執行力を持つ書面として公正証書を作成し、婚姻費用(生活費や子どもなどに掛る費用)を確実に支払ってもらうために」と言われます。
ただ、別居に関する公正証書に強制執行力を持たせるためには「別居中の婚姻費用の支払期間を令和何年何月から何年何月まで」と書面上で明確にする必要があります。
別居になったときに、別居期間がどのぐらいになるかはわからないことが多いと思いますし、離婚を前提とまでは考えてない場合等、特に決めるのは難しいと思いますが、公正証書には、期間の設定が必要になります。
今回のケース、A様も、別居の時に作成する公正証書は、離婚になっても、支払いの金額が同じであれば、そのまま効力を持つと思われていました。
A様は離婚を前提とされていて、離婚は数年後と考えられていたようですので、期間は数年後までとすることになりました。
ここから別居に関する公正証書を作成するために、A様に詳しくヒアリングさせていただきました。
これらの情報を詳しくヒアリングしていきました。
「長女が大学卒業した頃(作成当時は18歳)に離婚すると今は考えていますが、それより早く離婚することになるかもしれないし、まだ先かもしれない」ということでした。
その理由の1つに次女の存在がありました。
「強制執行できない書面では困る」ということでしたので、長女が大学を卒業する予定日の属する月までを支払期間として考えられ、婚姻費用について、令和〇年〇月から、令和〇〇年3月(長女が大学を卒業する予定日の属する月)までと書面上では決められました。
その時点で、別居が続く場合は再度協議するとしています。
また、それ以前に離婚に至ってしまった場合は、離婚について協議し、離婚についての公正証書を作成することを約束されています。
月々の金額は、既にお二人でお話合いをされ決められていました。
月々の婚姻費用に加え、A様ご夫婦は、ボーナス月(何月かの特定は必要)に関しては30万円プラスすることも決められていました。
※ 婚姻費用についても、裁判所が出している算定表があります。
ご主人は勤務先のオーナーと奥様のお母様から、お金を借りていたようで、オーナーへの返済は奥様がされていました。
別居中も奥様から返済することになり、返済にあてる費用をご主人から奥様に振込むこととなりました。
奥様のお母様への返済については、お母様の承諾のもと、ご主人が奥様に返済し、それを奥様からお母様へとすることになりました。
この奥様のお母様への返済については、大変複雑な文言になります。
子どもは奥様と住むことが決まっていました。
お2人は既に別居されていて、現在、ご主人は単身赴任でした。
子どもは既に大きいので、自由に連絡を取り合い、自由に会うということで決まっていました。
「今後、相手方の生活に対して誹謗中傷しないことを確約する」ことのほか、もう1つ決められたことがあります。
ご主人は、奥様とその職場の元上司との不倫を疑っていて、その元上司は転勤したため、今は仕事上でも会うことはないそうですが、それでも「会っているのでは?」と思っていたようです。
そのため、その元上司とは会わないことを約束したそうです。
この内容も公正証書に記載されています。
別居にあたって、きちんと効力がある公正証書を作るのは、安心して別居生活を送るためです。
別居を始めるにあたって、1番不安なのはお金のことでしょう。
別居において「生活費をこれまで通り払ってくれるだろう」「家のローンは払ってくれるだろう」と安心していると、大きなリスクがあります。
生活費の負担等、夫婦で経済力の弱い人が、強い人に生活費の支払などを拒まれると、生活が立ち行かなくなってしまいます。
また、口約束で「払う」と言っても、本当に期日通りに決まった額を支払ってくれるのかどうかも、わからず不安があります。
強制執行が可能な別居公正証書に、婚姻費用等について約束されているにも関わらず支払いが滞った場合は、裁判手続きを踏まずに強制執行の手続きに入ることが可能になります。
強制執行のための手続きは必要です。
別居公正証書に記載する内容は人により違いますが、以下で一般的に重要だと思われる、別居公正証書に記載するべき内容について説明します。
公正証書が強制執行力を持つためには、別居について発生する費用の支払期間を決めて書いておく必要があります。
強制執行を可能な公正証書にするために、支払の期間を確定しなければならないのです。
当事務所に相談に来られるお客様のなかには「どれくらいの期間別居するのか決めていない」という人が多いですが、ご夫婦で相談して何とか決めていただくことになります。
別居期間は、自分が思っているよりも少し長く設定しておくほうがいいかとは思います。
公正証書に書いた期間より早く別居が終了する場合に備えては、「別居終了時点で婚姻費用の支払を終了する」とすることができます。
決めた期間を過ぎても別居が続く場合は、「再度協議する」とします。
婚姻費用(生活費)に関する上記の事柄を決めて、公正証書に記載します。
婚姻費用は、夫婦がお互いの収入状況に応じて分担します。
その目安は、裁判所が「養育費・婚姻費用算定表」として公開しているので、参考にするとよいでしょう。
あくまで参考ですので、夫婦の話し合いで決まったことなら、基準金額より高くても低くても問題はありません。
不動産には夫婦のうちどちらが住むのか、住宅ローンの返済等がある場合は、別居中、それをどうするのか等を決めます。
また、その間の固定資産税や、マンションであれば管理費等についても、決めておく必要があると思います。
「夫が住居(不動産)を出て、妻と子どもが不動産に住む場合の維持管理費用はどちらが持つのか?」など、細かいところまで決めて書いておくと安心です。
「離婚に至った場合は、離婚の公正証書を改めて作ること」を、決めておくほうがいいと思います。
別居の公正証書に、離婚になった場合の条件などを決められ、「その内容をもと協議して離婚の公正証書を作成することを確約する」という内容を入れることもあります。
口約束をしていても、離婚になった途端「公正証書は作りたくない」と言われるかもしれませんが、その抑止策となります。
※公証人の判断により、この内容を入れられないと判断される場合もあります。
別居公正証書の作成の流れを大まかに記すと、上記のようになり、離婚の際の公正証書と流れは同じです。
公正証書は、原則、当事者お2人が公証役場に行き、公正証書原本に署名捺印することが基本です。
別居公正証書の作成を行政書士などに依頼する場合、その費用がかかります。
当事務所の別居公正証書の作成サポート費用は55,000円(税込)です。
上記のような行政書士事務所への費用のほかに、公証役場に公証人手数料を支払う必要があります。
公正証書における公証人手数料は、婚姻費用などの記載されている金額に応じて、公証役場により計算されます。
計算の仕方は決められています。
公正証書を自分で直接公証役場に行って作成できれば、行政書士事務所などへの費用は必要でありませんが、きちんと効力を持つ公正証書を一般の方々が考え、公証人に正確に伝えることは非常に難易度が高く、おすすめはできません。
別居公正証書は、離婚公正証書としては使えません。
別居中の婚姻費用と離婚後の養育費が同じであってもです。
つまり、別居から離婚になるときには、離婚の公正証書を改めて作る必要があります。
そのため先述したように、あらかじめ別居公正証書の内容に「夫婦が将来離婚に至った場合、夫、妻ともに離婚に関する合意内容を公正証書に作成することに協力する」といった旨を、含んでおくことが望ましいです。
以上、別居公正証書に関する様々なことを、事例をあわせてお伝えしました。
「別居公正証書と離婚公正証書は別」ということや、「別居の期間を定めて書かなくてはいけない」ということは、ご相談に来られるお客様は誰もご存知ではありません。
基本的に別居公正証書は複雑な部分が多く、効力を持つ書面にするための内容は一般の人には難しいです。
できる限りプロにサポートをしてもらって、別居公正証書を作成することを推奨いたします。